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22話 彼の嫉妬と、彼女の純粋な告白

Author: みみっく
last update Last Updated: 2025-09-07 07:00:49

 明日は大学に行かないと……。しかし、ヒナには会いたくないな……。ユウマは、布団の中で一人、深く息を吐き出した。

 翌日は体調不良を理由に大学を休み、家に籠っていたユウマ。そして二日後の朝、重い足取りで家を出ると、マンションの前にヒナが立っていた。彼女は俯き、その目元は腫れ上がっている。一体いつからそこにいたのだろうか。

 ユウマの心臓が、激しく、そして苦しく脈打った。まるでバグを起こしたかのように、不規則な動悸が胸を襲う。このまま気づかないふりをして、人混みに紛れてしまいたかった。

 「ユウくん!! ちょっと待って!」

 その時、今、一番聞きたくない声で自分の名前が呼ばれた。無視しようにも、すでにヒナの泣き声が周囲の注目を集めてしまっている。

 はぁ、と心の中で深いため息をつき、ユウマは観念して振り返った。その瞬間、ぽふっと柔らかい衝撃と共に、ヒナが抱きついてきた。

 「ユウくんのばかぁ……約束破った! 連絡も無視した! いじわるした!」

 ヒナが一方的に文句をぶつけてくる。しかし、ここで言い返せば、通行人の邪魔になるのは明らかだった。ユウマは言い返したい衝動を必死に抑え込む。

 公園……? いや、公園も周りの迷惑になるだろう。では、家か。

 「あまり誘いたくないけど……家に来て」

 ユウマは、感情のこもらない声で一方的にそう告げた。ヒナの答えを聞く間もなく、彼はマンションの入り口へと引き返す。ヒナもまた、無言のままユウマの後を追ってきた。

 部屋に入ると、ユウマはそのままリビングへと進み、ソファに座った。ヒナは、玄関で靴を脱ぎながら、ユウマの背中を不安げに見つめている。

「……ユウくん……どうしたの? お、怒ってるみたい……」

 再会した時とは、ヒナの表情が明らかに変わっていた。先ほどまでの、自分が悪くないとばかりに一方的に文句を言っていた態度や口調は消え失せ、今はユウマの纏う冷たい空気に何かを察したようだった。その顔には、何を言われるのかという不安と、怯えが滲んでいる。

 ユウマはゆっくりと振り返り、ヒナの瞳を真っ直ぐに見つめた。その視線に、ヒナの体が微かに震える。

「そりゃ……俺が授業を受けてる時に、他の男の腕を掴んで仲良く歩いてるのを見たら……気分悪くもなるって」

 ユウマの声は、自分でも驚くほど冷たく響いた。ヒナの顔から、さっと血の気が引いていくのがわかる。

「そんなことしてない!」

 ヒナは、反射的に声を荒げた。その瞳は大きく見開かれ、まるで信じられないものを見たかのように揺れている。

「いや、明らかにあれはヒナだったし。ヒナのいるグループで間違いなかった。俺がヒナを見間違えるわけないだろ……好きだったんだから」

 ユウマの言葉が、部屋の空気を切り裂いた。最後の「好きだったんだから」という言葉は、彼の口から漏れた瞬間、彼自身も驚くほど重く、そして決定的に響いた。

「え? ちょ、え? 待ってよ。好きだったってなに!? ねぇ!」

 ヒナは、混乱したように声を上げた。その顔には、驚愕と困惑が入り混じった複雑な表情が浮かんでいる。

 これ、どっちの驚きなんだよ……!?

 俺が好きだったという事に驚いてるのか? それとも、「好きだった」という過去形に驚いてるのか!? ユウマの心の中で、渦巻く感情がさらに激しくなった。

「そうだよ、好きだったよ。今は……もう、会いたくない」

「なんで!?」

 ヒナの声が、悲痛な叫びのように響く。ユウマは、その声に胸が締め付けられるのを感じながらも、冷徹な言葉を続けた。

「今、言っただろ。他の男と仲良く腕を掴んで歩くところなんか見たくない。好きだったから! ヒナには、それが当たり前で無自覚なのかもしれないけど……俺にはキツイ」

 ユウマの言葉が、ヒナの胸に突き刺さる。ヒナは、みるみるうちに顔色を失い、唇を震わせた。

「……それ、わたし? わたし……あの日、あ! 眠くて……ほとんど意識なかった! だって……その、朝方までエッチして……朝にもエッチして……寝てなかったもんっ」

 ヒナは、顔を真っ赤にして俯き、恥ずかしそうに、しかし必死な声で言った。その言葉に、ユウマの胸に一瞬、動揺が走る。

「その移動中に誰かに掴まってたかも……ごめん。無意識でも……イヤな思いをさせちゃって。普段は無意識でも、男の人に掴まったりしてないよっ。友達に聞いてもらえばわかる! 保証するっ。……す、すきなの? わたしのこと……?」

 ヒナは、今更になって顔を真っ赤にさせ、潤んだ瞳をキラキラと輝かせながら、ユウマに問いかけてきた。その瞳の奥には、不安と、そしてかすかな希望が揺れていた。

♢ヒナ視点

 大学の建物が視界に入ってくると、互いの授業が違うため、ユウマと別々の道を行かなければならない。その事実が、ヒナの胸に小さな寂しさをもたらした。ユウマの腕から自分の腕をそっと離すと、途端に、腕に残っていた温もりが消え、ひんやりとした空気が肌を撫でる。

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